市役所新庁舎基本設計(素案)に対する意見書

 明石市が進めている市役所本庁舎の建て替え計画について、1月末を期限に募集していた基本設計素案に対するパブリックコメントに以下の意見書を提出しました。

2021/1/31
松本 誠
( 政策提言市民団体 市民自治あかし)

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  1. 新型コロナ感染症に伴う社会経済の混乱期に、推進は見合わせるべきである
  2. 市民参画の手続きを省略した新庁舎建設計画の推進は、自治基本条例違反である
  3. 新庁舎のコンセプトや配置計画で議論・検討するべき課題がまだ山積している
    1. 高層から中層への建物の階高変更や規模について
    2. 立体駐車場と配置計画は眺望阻害につながる
    3. 議会の配置に関する検討と議論の不足
    4. 自治基本条例を具体化する新庁舎づくり
    5. ICT時代を迎えた市役所業務と仕事の変化への対応
    6. 各部局の意見と合意形成のプロセスへの疑問
    7. 「陸の孤島」化に備えた防災対策庁舎への対応

1. 新型コロナ感染症に伴う社会経済の混乱期に、推進は見合わせるべきである

 新庁舎の建設は百数十億円もの巨額の公共事業であり、年間税収の3分の1に相当する費用の多くは、後年度負担による次世代へのツケ回しになる。
 現在は新型コロナ感染症の第3波の真っ最中であり、世界で1億人の感染者を出し、死者は200万人を超え、国内の感染状況も極めて深刻である。今後も感染の爆発的な波は今年はもちろん来年以降も続くと見られ、社会経済的影響は戦後最大の規模になるとみられる。当然、今後何年にもわたって国も自治体も厳しい財政窮迫が続くのは論を待たない。いわば、巨大災害の真っ最中であると位置づけるべきである。
 このような時期に費用の大半を借金に依存した巨額公共事業は、当面は事態の推移を十二分に検討したうえで推進の可否を決定するのが、住民から預かった財政運営の当然のあり方ではないか。
 昨年(2020年)3月市議会で基本計画を決定する過程はもちろん、その後のコロナ感染症が進展する事態の中で、将来の財政への影響や見通しについて分析検討資料が出されたり、市民の前で議論されることがないままに、基本計画決定時のスケジュールに沿ったまま基本設計の素案づくりが進められてきた。
 素案が報告された昨年12月議会でも、恐ろしいことにコロナ禍に伴う財政見通し等についての検証や議論が全く行われないまま、素案が了承された。市は、市政をチェックする機能を失った議会の対応をいいことにして、予定通り新庁舎建設を進めるのは無責任の極みである。将来予想される厳しい財政事情を無視して事業を進める責任を、だれが、いつ、どのように取るのか。
 少なくとも、コロナ禍による社会経済の動向、明石市の財政の将来見通しがつくまで、計画の推進は見合わせるべきである。

2. 市民参画の手続きを省略した新庁舎建設計画の推進は、自治基本条例違反である

 私たちは新庁舎計画に関して4年前から「市民への説明と検討過程での市民参画」を求めて、市長への要望書、市議会への請願等により繰り返し、自治基本条例に明記された検討段階からの市民参画のプロセスを誠実に踏むように要請してきました。
 市はその度に「パブリックコメントや市民説明会で市民参画を行う」としてきました。
 自治基本条例や市民参画条例に明記された「市民自治の市政運営」における「市民参画」は、こうした「意見聴取」や「説明会」だけでは充足しません。パブリックコメントは、単なる意見聴取(公聴)の域を出ず、自治基本条例で「市民参画」と「協働のまちづくり」「情報共有」の市政運営の原則を定める以前から行われてきた「市民参加」の手段の一つに過ぎません。
 しかも、現在行われているパブリックコメントは、提出した市民の意見に個別に答えることもせず、ホームページに「市の見解」を短く記載するだけです。市民参画とは、市民の意見を求めて、その意見の妥当性について双方向の議論を重ねて「市民的合意」を見出す手順です。「言い放し」「聞き放し」は市民参画とは程遠い手順です。
 市政への市民参画で最も重要なことは、事業についての課題について「一緒に議論し、異なる意見を合意形成に導くプロセス」を共有することです。市民参画条例で多様な参画の手法を列挙し(第7条)、多様な手段を駆使して市民参画を保障することを明確にしていることに、見て見ぬふりをする市政のあり方は、到底許されるものではありません。

 また、「意見交換会」とも称した「市民説明会」は、今回も計画されていましたが、コロナ情勢の下で中止されました。市民への説明会は市民参画の重要なステップであり、情報共有と意見交換の場になる重要なステップですが、コロナ禍とはいえ唯一ともいえる市民参画の機会を中止したことで、その代替手順をどのように充足されるのでしょうか?
 災害等で予定した会議を開けなくなれば、日を改めてその機会を設定するのが市民自治をめざす本来の行政運営であります。おそらくは3月議会で素案とパブコメの結果を報告し、議会の了承を得て「基本設計に策定」を終えて実施設計の発注へ進まれる予定かと思います。
 だとすると、かろうじて「市民参画」の手順の一つであった市民説明会を飛ばすことになり、新庁舎計画はますます「市民参画のプロセス」抜きに進めることが明瞭になります。計画を市民に直接説明しない、市民との意見交換もしない。こんな進め方で新庁舎建設を進めてもいいのでしょうか?
 これは、明らかに自治基本条例第4条(自治の基本原則)第12条(市民参画における市長の責務)第13条(多様な市民参画手法を用いる)第29条(事業について市民参画の下で検証、評価を行う)等々に違反した市政の進め方です。建て替えれば少なくとも半世紀以上にわたって市民の財産となる新庁舎の建設計画を、このような恥ずかしい行政手続きで進めることは許されません。
 国の財政支援措置の期限に併せて駆け込むという理由で、決して許されるものではありません。「スケジュールありき」ではなく、コロナ禍の状況の推移を見諮りながら、踏むべき手順を履行できるようにスケジュールの調整を図るべきです。

3. 新庁舎のコンセプトや配置計画で議論・検討するべき課題がまだ山積している

 昨年3月に報告された基本計画に盛り込まれた新庁舎のコンセプトや配置計画、フロアー計画等が大幅に変更されているにもかかわらず、市議会を含めてその議論が公に行われることなく基本設計素案がまとめられました。素案を“たたき台”にして十二分な検討をこれから加えるなら、基本計画からの大幅変更も問題はないが、提示された素案があたかも「基本設計案」のごときスピードで基本設計の確定に進み、実施設計へ移ることは、あまりにも無謀な進め方です。
 市民はもちろん、庁内および議会での議論が煮詰まっていない証拠は、以下の具体的な計画からもうかがえます。

① 高層から中層への建物の階高変更や規模について

 基本計画では10階を超える高層ビルとしていた階高を、6階建ての中層に変更する案は評価できます。海に開かれた、自然豊かな明石の街並みと臨海立地の景観や、環境に配慮したローコスト、低エネルギー庁舎をめざす中層建築は当然の配慮です。望むなら、さらに階高を減らし4階、3階建などの低層化を図るべきです。そのために、当初は民間売却を計画していた隣接の空白地を庁舎ゾーンに拡大するべきでしょう。
 売却計画はいったん白紙にされましたが、なお売却含みの将来計画が見え隠れして、庁舎敷地を狭めた結果の無理が、立体駐車場などにも表れています。

② 立体駐車場と配置計画は眺望阻害につながる

 現在の議会棟跡に計画されている立体駐車場計画は、抜本的に改めるべきです。
 本庁舎の南側に海辺の景観を遮るように計画されている5階建ての立体駐車場は、せっかくの本庁舎への多様な配慮を減殺しかねません。
 5階建ての立体駐車場は駐車場としての機能、活用しかできません。現在の庁舎前駐車場は2層構造だが、2階は屋上になり、これまでもお祭り広場に活用されたり、1階も雨天用のイベント広場にも活用された「多用途性」を持ってきました。
 駐車場は現時点では、既存庁舎跡の敷地を活用した平面利用として運用するとともに、多用途のイベント広場や防災広場として活用するのが最善ではないでしょうか? 一部芝生を貼った駐車場にすれば、海辺の広大なイベント広場、多用途広場を確保でき、将来の活用に柔軟性を持たせることができ、立体建築物をなくしてコスト削減にもつながります。

③ 議会の配置に関する検討と議論の不足

 昨年12月16日の市議会新庁舎整備検討特別委員会を傍聴していて、のけぞったのは議会の配置に関する議論でした。3階に市長室などの行政中枢部門と災害対策本部を併せた執務エリアと議会エリアを配置した理由は、それなりに理解できることでした。
 しかし、議員側から異論が出て、独立性の確保や議場の立体構造を確保するための6階案などが出されてやや紛糾しました。新庁舎への建て替え計画が議論され始めてこれまで、議会棟をどうするのかについての議論が、議会内でも全く行われてこなかった。この半世紀余り、議会棟が現在のように独立棟になってきたことに慣れ親しんできたと思われるが、新庁舎計画では独立棟ではなく本庁舎内に組み込まれることは早くから分かっていました。にもかかわらず、議会の特別委員会では半世紀先をにらんだ「新しい議会のあり方」を議論し議場や委員会室、議員控室などをどのように配置し、機能させるのかについて自ら検討し提案することが今日までありませんでした。
 このこと自体に驚くのですが、市側からもなぜ、議会の配置やあり方について議会からの提案等を求めることがなかったのか、不思議でなりません。少なくとも、一昨年(2019年)10月に猛スピードで現在地建て替えを進めるように決議した時点から、議会は議論して素案に反映するべきであったのではないでしょうか?
 これからの議会は、議場や会議室、議会内の施設の在り方について、これまでの「権威主義」や「閉鎖性」を排した「市民の参画と協働」「議会の公開性を高めて市民との情報共有に努める」ための議会の在り方をハード面でもソフト面でも高めることは時代の趨勢です。
 そうした観点を議会内で合意・共有しなければ、新庁舎の設計はできません。こうした議論が全く行われないまま、基本設計案をこのまま決めるのは、事実上不可能です。このこと一つとっても、新庁舎計画は推進のスピードを減速し、「議論するべきことを優先する」方向へ転換するべきではないでしょうか?

④ 自治基本条例を具体化する新庁舎づくり

 市役所は単なる職員の執務オフィスではなく、市民サービスを行う「公助」の拠点であり、市民や市民・住民団体との協働を進める「共助」の拠点でもあります。明石市自治基本条例に定めた「市民自治の市政とまちづくり」を進める拠点のはずです。この観点からは、「市民の市政への参画」と「協働のまちづくり」「情報の共有」という市政運営の原則を新庁舎建設においてハード、ソフトの両面から反映させねばなりません。
 そうした観点から、基本設計にどのように反映されたのかが見えてきません。フロアー計画では最上階の6階に「市民エリア」を配置していますが、その位置づけは「市民の憩いや活動、交流の場となる多目的スペース」としているにとどまっています。また、1階の窓口フロアーに「市民活動展示スペース」を併設することになっていますが、上記に触れた「市民の参画」「協働のまちづくり」「情報の共有」を具体化する発想としてはお粗末ではないでしょうか?
 どうするかについて、それこそ市民の参画で、ワイワイガヤガヤと議論を重ねる中で知恵を絞りだすべきでしょう。庁舎の一画を市民に開放するという空間的な配慮だけではなく、各部局の執務、しごとのあり方についても市民との関係をどう構築していくかの視点が大事かと思います。
 各部局への基本設計の説明は、これから順次行うということですが、まったく逆ではないでしょうか? これから21世紀後半の市役所の仕事のあり方を検討し、これまでの仕事のあり方を抜本的に改革していくことが求められています。
 現状では、新庁舎は単なる「老朽化した建物を建て替える」だけにとどまります。

⑤ ICT時代を迎えた市役所業務と仕事の変化への対応

 同じことは、ICT時代を迎えた市役所業務と仕事のやり方の劇的な変化への対応です。いまコロナ禍から、今後の大きな仕事や働き方の変革としてオンラインを活用したリモートシステムを活かすことも、同時並行で進んでいます。
 市役所サイドでそのような議論と検討結果をまとめていないから、設計側がまとめた素案にそうした観点が反映していないのは当然です。
 素案では、窓口エリアの設計について、市内各所に配置した市民センターや駅前の窓口センターと今後、どのように業務を分担し、ICTを活用したコンビニや郵便局と連携した業務システムをどうするのかが裏付けられていません。新庁舎の設計は本来、そうした計画を検討し方向性を出したうえで設計することが当然求められます。すでに多方面から指摘されているように、本庁舎のフロアー面積は将来もっと圧縮できる。それまでは、既存の分庁舎も過渡的に活用しながら、新しいシステムに本庁舎を対応させていく選択も可能かと思います。
 余りにも時間的に急いだ歪みが、こうした「基本的な検討」を飛ばした建設計画になっているのではないでしょうか。将来に悔いを残す計画を、いまゴリ押しすることを見直すべきです。

⑥ 各部局の意見と合意形成のプロセスへの疑問

 ④の最後でも触れましたが、素案をまとめる過程で市役所各部局の仕事のあり方をどう変えるのか、変わるのか ── という議論を踏まえた「庁内の合意形成」が後回しになっていることが、大きな疑問です。
 明石市はかつて2009年に市役所機能検討報告書を庁内でまとめ「5つの市民センター体制」を提言しています。また、2010年には学識者などで構成した「市役所サービスのあり方検討懇話会」を設置し、翌年「5市民センター体制を基本的に支持する答申」を得ています。議論の中では、今後のICTを活用した行政実務のあり方の変革もにらんで提案をされています。
 しかし、今回の新庁舎建設計画の推進に併せて、こうした検討結果が反映されたという経緯が見当たらず、新たな検討が行われた痕跡もありません。半世紀ぶりに新しい本庁舎を建設するに際して、こうした議論や検討なしに基本設計がまとめられることは、ただ新しい建物を建設するという発想しかないように伺えます。
 しかも、恐ろしいことに、庁舎で仕事をする各部局が基本設計案づくりに関わっておらず、素案がまとまってから各部局に説明し意見を聴くという逆立ちした展開になっています。基本計画の策定から設計業者の募集 ── 選定という時間的経過から見ても、基本設計に庁内意見を反映する余地はありませんでした。
 こんな新庁舎建設の進め方が、将来大きな悔い残すのは明らかです。計画の進め方の基本に立ち返って、まずは原点から出直してはいかがですか?

⑦ 「陸の孤島」化に備えた防災対策庁舎への対応

 基本設計素案のコンセプトには「巨大地震や津波、水害等の発生時にも、庁舎としての機能を継続することができ、災害への迅速な対応が可能な計画とする」と記載しています。
 確かに、地盤のかさ上げや免震構造の採用、液状化対策、重要施設の上階部への配置 ── などが組み込まれていることは分かります。しかし、海辺への立地条件から新庁舎の最大の災害対応は、次期大規模災害の最大の課題である南海トラフ地震の津波への対応です。
 地盤のかさ上げによって1階部が国道28号線の高さになることで、庁舎の水没は避けられるとしています。仮に想定した浸水水位にとどまった場合でも、南海トラフ災害では明石駅前中心市街地は水没するわけですから、市役所庁舎や国道28号が水没を免れてもそれ以外の中心市街地は水没し、市役所が「陸の孤島」化するのは必至です。
 これに対応するのは、現在地建て替えの場合には対応策がないことはこれまでも明らかになっており、市も基本計画のパブコメ意見への見解などで認めてきたところです。本庁舎が災害時に「陸の孤島」になると、職員の庁舎への出入りや周辺住民が避難所として市役所へアクセスすることも困難になります。
 その際にどのような対応をするのかということが明示されていなければ、新庁舎の「防災対策」として不十分です。
 市はこれまで、陸の孤島になり本庁舎での業務継続が不能になった際には「業務継続計画」(BCP計画)に、別の施設で業務を継続することを明記するとしてきました。素案では陸の孤島化した際に、本庁舎で市役所の機能が維持できなくなることが明記されていません。代替策を明記して、どのように業務を継続するのか、職員や住民の避難先としてどのような代替策を取るのかを明示しておかないと、新庁舎が陸の孤島化しても避難所として機能するという誤解を市民に与えかねません。
 現在地建て替えにこだわる限りは、そのような制約があることも明らかにした計画、設計案であることを明示するべきです。

以上