呑兵衛逍遙 13 ◇ 2010.01.01

まこと流まちづくりの地平 ◇ 松本誠

「市民の目線」と「役所の目線」
── お役所体質の“カラ”(殻)を破ることの難しさ

 2009年は、明石でまちづくり市民活動をはじめて20年を経た私と多くの仲間にとって、歴史的な転換ともいえる年だった。
 20年前の1989年11月に「まち研明石」(明石まちづくり研究所)を立ち上げてから、まち研明石を基盤とした市民活動は明石市の行政にとっては相容れない活動団体であった。鋭い市政批判もしてきたが、市政批判をする団体を“敵視”する首長が存在する中では、行政への市民の参画も協働も無縁の世界だった。兵庫県内はもちろん、全国各地の自治体のまちづくりに協力し、支援することをライフワークとしてきた私にとっては、地元での貢献ができないことは何よりも辛いことでもあった。

 そんな中でここ3、4年前から、少しずつ幹部職員との意思疎通が進み、まちづくりの現場での協働や、市民塾のまちづくり講座に部課長が出席するようになり、変化が生まれれていた。2009年になって、それが一気に全開した。市長から直接、市政への協力要請を受け、意見交換を重ねながら、11月29日に開催した「まち研明石20周年のつどい」に北口市長が知事ら5名の首長と一緒にパネリストとしてシンポジウムに参加して、3時間におよんだ交流懇親会にも最後まで付き合っていただき、「参画・協働の市政」めざしてエールを交換するところまで進んだ。ちなみに、この「つどい」には、明石市の特別職や幹部職員ら40数名が参加した。

職員研修“カラワリ大作戦”に参画

 明石市は2008年度から“カラワリ大作戦”と称する職員研修に取り組んでいる。お役所仕事に慣れ親しんできた職員の体質(殻=カラ)を割り砕こうという狙いだ。初年度は、加西市や三木市、生駒市などの改革的首長を招いての講演を聞いた。2年目の2009年度は、市民の目線に立った職員像を考えるために「市民主体のまちづくりを考える」をテーマに、私と明石の市民活動団体が協力してプログラムをつくった。
 9月から2月までの連続講座で、地方分権時代の市民と自治体職員のあり方を講義し、市民活動のリーダー9名が各グループのチューターとして参加したワークショップで意見交換した。11月-12月には、10の市民団体の活動に参加する体験実習も行った。2月初めには、参加した100名ほどの職員がレポートを提出し、発表と講評のまとめを行う。

 もちろん、1回限りのこうした研修で、長年身についたお役所体質が払拭できるとは思わないが、ワークショップや体験実習で一人ひとりの職員と話していると、これまでにない斬新な体験と感覚に触れたことを生きいきと語る職員が少なくない。職員と腹を割った話をした経験の少ない市民活動リーダーにとっても貴重な体験だった。この交流体験を、どのようにして日常化していくかが、大きな課題でもある。

年末に相次いだ“冷や水”

 だが、こうした新風は、順風万歩とは行かない。年末、早くも各論で幾つかのつまづきを感じた。一つは、大詰めに近づいた自治基本条例の策定作業だ。2007年7月から2年間27回にわたって審議してきた市民主体の検討委員会が8月に提言書を提出した。市は提言を尊重して条例素案をまとめるとしていたが、この12月10日に市議会に説明し12日には検討委員会にも報告した。

 残念なことに、発表された素案は検討委員会の提言とは大きく外れた、骨抜き条例ともいえる中身になっている。自治基本条例の生命線である「最高規範性」を否定し、市民の「権利」よりも「責務」を強調し、逆に「市長の責務」を「努力義務」にとどめたり、協働のまちづくりや情報共有についても現行システムをどのように強化していくのかが見えず、現状追認的な条例の色彩が濃厚になっている。
 素案の中身については、検討委員会内部からもすでに批判が出されているが、市はパブコメ手続きを経てこのまま3月市議会で条例化を図ろうという姿勢がうかがえる。
 素案の内容が市民に公表されたのは、パブコメ開始の12月21日にホームページにアップされたのが最初であり、素案を報告した検討委員会も非公開で開催するなど、情報共有の上でも著しく妥当性を欠いている。

 上記の基本条例素案の中でも、長期総合計画の位置づけが希薄だが、自治基本条例の制定作業を進めるのと並行する第5次長期総合計画の策定プロセスが、自治基本条例との整合性を欠いているのも大きな問題である。今回の計画策定作業は実質的に1年足らずで進めようというこれまでにない荒っぽさだが、その情報共有や市民参画性に関しても、市民目線を欠いた進め方といわざるを得ない。

 例えば、新年早々の1月7日に第1回審議会を開催するが、その日程と傍聴者の募集が公表されたのは御用納めの12月28日。市のホームページにアップされた情報によると、傍聴の申し込み締め切りは1月6日正午必着。御用納めに発表して、仕事初めまでに申し込めという感覚が、いかに市民目線とかけ離れたお役所仕事になっているかは、説明の必要もないであろう。
 また、同時に発表された総合計画の策定に関わる市民ワークショップの参加者募集も、1月12日必着という性急ぶりである。

具体的な事業や仕事を通じて試される「参画・協働」

 自治体の根幹に関わる上記2つの策定作業を、市民の参画を“犠牲”にしてまで、なぜ、こうも急ごうとするのか? 中身よりも形が優先ということであろうか? 
 自治基本条例も「市民目線に立った市政」の運営も、方針や理念、キャッチフレーズで実現するものではない。大勢の職員を擁して巨額の税金を使う行政の具体的な事業、日常の仕事を通じて試されるものである。
 「公開事業仕分け」が注目されたのは、「税金のムダ遣いをなくす」という方針が、個別の税金の使い方や実施主体の実態を具体的に公開で検証したからである。そのプロセスで、お役所的なやり方が赤裸々になっていき、否応なく是正が迫られる。小さなことにも目配りする研ぎ澄まされた神経が、市民と職員の双方に求められる所以である。