呑兵衛逍遙 12 ◇ 2008.12.31

まこと流まちづくりの地平 ◇ 松本誠

政治家の給与・報酬、退職金とは何か?
── 明石市長の退職金騒動に見る「誤解」と「はき違え」

 北口寛人明石市長が1期目の退職金約2400万円を受け取ることをめぐり態度を変転させた挙句、12月市議会では約492万円に大幅減額した修正案が議員提案され、2票差で可決して市長の満額受け取りを葬った。この騒動は、市長の稚拙な対応と政治家としての責任意識の希薄さを露呈したが、議案採決をめぐる過程で議員の責任回避ともとれる姑息な動きも見られ、議会改革に新しい課題も浮上させた。

選挙前の退職金返上表明を選挙後に撤回、議会で大幅減額可決

 ことの発端は2年前にさかのぼる。北口市長にとって2回目の選挙となった昨年春の市長選を控えた前年の12月市議会で、「1期目の退職手当は受け取るつもりはない」と市長自ら答弁し、特別職の退職金を廃止する方針を表明していた。高額の市長退職金は常々問題として取り上げられていたほか、厳しいやりくりに迫られている財政事情の中で、市長の勇断として評価されていた。翌年3月には市議会で退職手当の支給停止措置を決め、市は特別職報酬等審議会に諮問することを表明していた。

 ところが、再選すると今年9月になって報酬等審議会に諮問し、11月に所定の退職金支給を妥当とする答申を得ると、市長は一転して1期目の退職金を受け取る意向を表明。「公約を翻した」という批判を受けることになった。

 この12月市議会では、市長は過去の発言を「軽率だった。取り消したい」と陳謝し、市長自らに約2400万円を支給する議案を提出した。これに対して、議会の市民派議員を中心とした会派などが「公約通り不支給」とする修正案を提出。また「市長与党」を自認する公明党に共産党や一部議員が同調して約492万円に減額する修正案が提出された。

 投票の結果、16対14票で492万円への減額案が可決された。この金額は、市長が提案した金額の約5分の1にあたり、一般職員に適用される退職手当の支給乗率をもとにしたもので、市長の給料月額約123万円に1期の在任期間4年を掛けて算出された。

首長の給与や退職金は「評価報酬」や「生活給」か?

 自治体の首長の給与・報酬や退職金は、しばしばその高給ぶりが問題とされる。高度成長期の財政豊かな時期には首長の座を去るときに一括して支給していたため、3期、4期務めた大都市の市長らは億単位の退職金を得ていたことから、厚遇ぶりが批判の的になった。そのため、目立たないよう1期終えるごとに支給する制度に変えたが、上記のように一般職員に比べてその高額さがしばしば問題になっている。

 90年代以降の財政危機や、庁外からの民間出身市長や市民派市長が相次いで登場する中で、庶民派感覚から退職金の大幅引き下げを公約にしたり、財政危機や失政・不祥事などから返上する首長もしばしば登場している。尼崎市の白井文市長は、初当選してすぐに公約に掲げたとおり退職金を500万円にする条例改正案を提案したが、議会が抵抗し白井市長の在任中に限ってという変則的な条例を修正可決したこともある。

 北口市長は選挙前の退職金返上発言を「軽率だった」と説明し、「困難な姿勢運営をしている中で退職金を半分にする提案が出てきて、(自分の)成果が評価されていないのかと落胆して、憤ってしまった」と釈明している。

 選挙で選ばれる首長の給与・報酬が、業務の評価として支給されるものと誤解しているのではないかと疑いたくなる。特別職の報酬等審議会の委員も、同じように思いこんでいるのではないかと常々感じてきた。

 今春、大阪府では橋下知事が就任した後、職員や議員の給与・報酬の大幅カットを打ち出した際、年額2000万円を超す報酬を得ている議員が「食べていけない」と反対して、失笑を買ったことがある。20数年前、明石市の市長選に際して現職市長に「再出馬するのはなぜか?」とインタビューした際、「市長になってから建てた自宅のローンも残っているので…」と真顔で答えられて、のけぞったことがある。北口市長も会見や答弁の中で「経済的に苦しい」ことも理由に挙げている。生活費を稼ぐことや、仕事の見返りを報酬に求めるなら、さっさと別の職業を選んだ方が市民のためでもあろう。

 もちろん、財政的に余裕のあるときには激務に応じて報酬を出すことに市民も異論はないかもしれないが、今日のような経済環境の中でそのようなことを平然と口にすることが、政治家としてどのような目で市民から見つめられるかを理解できないことに、多くの市民が失望したと言えないか。7年前の花火大会事件の際に、当時の市長の言動が世間の非難と失笑を買ったことを思い出した。こうしたことが大きく報道されるたびに、市民として恥ずかしくなる。

採決での意思表示を隠す「無記名投票」は議会の自殺行為

 今回の騒動で恥ずかしくなったのは、市長の対応だけではない。市議会は12月19日の本会議で採決するにあたって、4人の議員から申し出があったという理由から急遽、この議案の議決を「無記名投票」に変更した。聞けば、4人以上の議員の申し出があれば無記名投票にできるという会議規則があるようである。

 本会議の前日にこの申し出が出てきた際に頭をよぎったのは、2005年3月市議会での逆転劇だった。市民の訴えでラブホテルの建築を規制する条例が議員提案された際に、市長は急遽対抗して規制の緩やかな条例案を提案し、無記名投票に切り替える中で議員の多数派工作を行って、1票差で議員提案を葬るという逆転劇を一夜で成し遂げた。

 今回は幸いして逆転劇は起きなかったが、そもそも選挙で選ばれた議員が、重要な政策を議決する際に、自分の意思を堂々と表明できない、しないというのは、議員として”自殺行為”にも等しい。市民からすれば、自分が投票した議員がどのような投票行動をしたかが見えないような議会は、透明性を欠くどころか、議会として議会人として失格といわざるを得ない。このような会議規則は直ちに廃止するべきだろう。