明石まちづくり小史 09

まこと流まちづくりの地平 ◇ 松本誠

住民投票、半世紀前の輝かしい経験を生かせ
── 自治基本条例の中間まとめ、直接民主主義の意義が議論不足

 昨年7月から検討委員会を設けて審議してきた明石市の自治基本条例づくりは、19回にわたる1年間の審議を経て7月18日、検討委員会が「基本的な考え方(中間めとめ)」を発表、市長と市議会に報告会を開いた。8月9日には検討委員会が市民に説明する「フォーラム」を開くが、山下淳会長(関西学院大学法学部教授)自らも指摘しているように、積み残された課題が山積している。

 その一つに「住民投票」制度を条例の中でどう扱うかの問題がある。

 「中間まとめ」では、「検討委員会でも議論が十分できていなく、委員の間で意見もまとまっていない」として、検討すべき論点を指摘するにとどまっている。論点は主に山下会長が示したものだが、「住民投票は住民参画・住民自治の究極のかたち」としながらも「間接民主制を採用している地方自治体の市長や市議会の政策決定を大きく制約することになる」という慎重論も挙げている。

 検討委員会の審議の中では、「明石では生活基盤が備わっているので住民投票が必要になる問題は少ない」「費用も多くかかり、議会を無視してまで必要な制度かという迷いも感じる」「陳情、請願、オンブズマン制度などで対応できるのでは…」などという意見も出された。「住民投票は費用がかかる」など住民投票制度についての事務局側の説明にミスリードもあったが、こうした委員の誤った受け取り方について委員会の中で是正されることのないまま、中間まとめに両論が併記されたことの問題は少なくない。

 地方自治は議員を選出して議会に行政をチェックする役割を課す間接民主主義を導入しているが、同時に住民投票を含めたさまざまな直接民主主義を採用していることは、地方自治の「二元代表制」と「住民主権」「住民自治」の関係を考えるうえで重要な要素である。議会サイドからしばしば出てくる「住民投票」や「住民参加」への拒否反応は、こうした原理を端から理解していない誤解から来ている。政策決定に住民の意思を直接反映させる住民投票制度は、直接民主主義を機能させる「民主主義のコスト」であることを理解しないと、変な議論に流れてしまいかねない。

 明石市はかつて半世紀余り前に、住民投票によって神戸市との合併を葬った「昭和の大合併」での歴史的な事実がある。検討委員会では一部の委員からそのようなことがあったらしいという発言もあったが、地元であった歴史的な事実についても共有する作業は全く行われていない。80年代以降に産業廃棄物施設や原発の計画に対して全国的に住民投票が頻発し、90年代終わりごろから平成の大合併をめぐって住民投票の実施が日常茶飯の状況になっている経緯も、委員会で共有されていない。

 今後の審議の中で、会長報告通り十二分に議論されることを期待するが、ここでは半世紀前の明石の住民投票について振り返っておこう。新版・明石市史(現代編)に詳しく記述されている。

 明石市は1919年、兵庫県内で神戸、姫路、尼崎に次いで、いち早く市制を施行した。敗戦直後の1946年9月、旧明石郡9町村などとともに神戸市への編入合併を打診されたが、このときは「戦災復興が先決」と断っている。明石市はその後1951年、明石郡大久保町、魚住町と加古郡二見町を編入合併し、中都市建設をめざした。国際的な大港都建設をめざした神戸市は1954年5月、明石市に対して正式に合併を申し入れ、両市の合併問題が再燃。当時の田口明石市政は紛糾をはじめる。

 当時、明石市は財政力が弱く思い切った事業もできない状態だったから、市長や議会は合併へ流れたため、神戸市との合併は当然と見る向きもあった。しかし、「市民税が高くなる」「いたずらに市域を広げるのは昔の領地拡張と同じで、市民には関係ない」「明石の地名を永久に残したい」という強い反対運動も広がり、「合併反対愛市同盟」が結成されるなど市内を二分する議論に発展した。

 10月半ばから始まった合併反対署名運動は、半月間で約4万3000人の有権者の6割強の署名を集め、合併の流れに大きく影響した。合併議案を審議する予定だった12月市議会では、冒頭に合併中立派議員から「住民投票による決定」が緊急提案され、賛成18、反対17の1票差で、合併の是非は住民投票に付された。

 明けて1955年1月23日、住民投票が行われた。神戸市の予想に反し合併反対票が賛成票の3倍強、2万票余りの大差がついて、合併は打ち切りとなった。田口市長は辞任、神戸市との合併問題はピリオドを打った。

 平成の大合併でも、住民投票は市長や市議会の思惑とは異なる流れを生み出し、政策決定に大きく影響した例は少なくない。市町村合併問題に限らず、市民の間で大きく意見が分かれる政策の選択に際しては、市民の意思をその都度反映させるために住民投票がクローズアップされている。

 自治基本条例では、「参画」と「協働」「情報の共有」が明石市でも大きなキーワードとされているが、抽象的な参画や情報の共有ではなく、自治体の行政運営の仕組みの中に、どのように具体的な制度をつくり出し、これまでの自治体運営を変えていくかが問われる。

 住民投票の議論も、具体的な政策課題についてどのように市民と行政の合意形成を図っていくかの議論が待たれる。