明石まちづくり小史 08

まこと流まちづくりの地平 ◇ 松本誠

「時のふるさと・明石」の子午線物語
── 今年は「日本標準時」施行120年

 英国のグリニッジ天文台を通る子午線を「世界標準時」と定めることが国際会議で決まったのは、1884年。2年後、日本政府は東経135度の子午線上での時刻をもって日本標準時とする勅令を発布し、1888年(明治21年)1月1日午前零時から、「明石の時」が日本の標準時として時を刻みはじめた。それから今年はちょうど120年になる。

 とはいえ、明石だけが「子午線のまち」ではない。東経135度上には日本海沿岸から淡路島まで南北にたくさんのまちが並んでいる。子午線標柱は最北端の京都府丹後市網野町から、最南端の和歌山市・友ケ島(紀淡海峡)まで3府県に44ヵ所あるという。兵庫県内が39ヵ所と断然多く、すぐ近くの西脇市は東経135度と北緯35度が交わる「日本のへそ」をうたい、日本へそ公園に2つのモニュメントやミュージアムを配置している。中でも、明石市内には9ヵ所も子午線通過標識があり、明石が「子午線のまち」を標榜し、全国にその名を発信しているのにはほかにも幾つかの理由がある。

 6月10日の「時の記念日」には、明石市は「日本標準時のまち」「時のまち」をアピールするさまざまなイベントを行っているが、なんといっても「時のまち」のシンボルは、東経135度の子午線上に立つ市立天文科学館の時計塔である。

 同天文科学館は1960年6月10日、明石海峡を望む高台の景勝地、人丸山に開館した。戦後、国立天文科学館を誘致する構想があり、兵庫県や明石市も陳情していたが実現しなかったため、1957年の国際地球観測年を記念する観光施設として計画された。建設費1億5000万円のほぼ全額は、国からの長期融資によって調達された。館の中心施設には東ドイツのカール・ツアイス・イエナ社製のプラネタリウムが輸入され、教育施設として解説を加えながら星空を投影し学校教育への活用を試みた。このプラネタリウムは日本国内では現役最古の投影機といわれている。

 天体観測や天文学、時や暦にかかわる展示など多くの入場者を得たが、独立採算の公営企業体としては赤字が続き、1978年度には不良債務が5億8000万円余りに達した。財政難の時期には廃止も検討されたが、教育施設としての位置づけを強めて存続を図り、82年には公営企業法の一部適用を廃止し教育委員会所管の施設に変わった。その後、阪神・淡路大震災以降の財政窮迫から再び独立採算制が強化され、現在は産業振興部の所管に移っている。同大震災では大きな被害を受けたが、3年間かけて修復工事が行われ、98年3月から再開した。

 最初の子午線標識が建てられたのは、1910年にさかのぼる。教育的価値を認めた明石郡小学校長会のメンバーが郡内小学校教員から月給の1.5%の寄付を得て参謀本部陸地測量部の地図上に記されている135度線上の、現在の明石市天文町2丁目と神戸市西区平野町黒田の2カ所に御影石の石柱標識を建て「大日本中央標準時子午線通過地識標」と刻んだ。平野町は当時まだ神戸市に併合されてはなく、旧明石郡として明石市と一体だった。

 それから18年後。当時の明石の教育界の大御所的存在だった明石市教育会長の山内佐太郎・旧制明石中学校長が「学術研究上、また時間の観念啓発上、日本標準時子午線は実に尊い」として、京都大学地球物理学教室の野満隆治博士に正確な135度の天体測量を依頼した。

 観測の結果、日本標準時子午線は人丸山上の月照寺境内を通過することが判明し、先の石柱標識は移設された。このとき新たに「トンボの子午線標識」も建てられた。1930年1月26日に除幕された高さ7メートルの鉄製の標識も、建設費用の約4割を市内の学校教員や児童生徒らが寄付している。後の再測量で11メートル東に移転し、天文科学館と同じ子午線上に現在は立っている。

 まちのシンボルは、市民の手で育ててきたという歴史が浮かんでくる。

 明石公園の正面を入ったところに、武者装束のロボット侍が毎正時に打ち鳴らす「とき打ち太鼓櫓」がある。ふるさと創生資金の一部と企業や市民のカンパで建設費2500万円をまかなった。これも「時のまち明石」のシンボルである。

 1989年11月オープンしたが、ことの発端は前号のメルマガで紹介した境内の緑が剥がされてしまった明石神社に保存されていた明石城の「刻打ち太鼓」である。胴に貼った皮が破れ、朽ち果てそうな刻打ち太鼓をなんとか現代的に再現できないものかと新聞報道したところ、まちおこしに関心を持っていた市内の若手経営者らが立ち上がって実現したものだ。明石にある川重のロボット工場が協力し、開発した。市民の知恵とまちの歴史を大事にした発案が、まちの誇りを育てる。

※「明石市史 現代編」、「明石を科学する」(神戸新聞明石総局編)参照