呑兵衛逍遙 04 ◇ 2008.3.20

まこと流まちづくりの地平 ◇ 松本誠

仲間同士の「気」の共鳴が「自然治癒力」を創る
── がんと闘う大学教授から元気をもらう

急性のショック状態から生き返った、現役のバリバリのがん患者

 3月上旬の土曜日、姫路の県立大学環境人間学部で開かれた大学教授の退職記念講演会は、一風変わった趣向の会合だった。

 200名ぐらいがぎっしり詰めかけた四角い教室は、がん患者やさまざまな病を癒す活動を続けている人たち、ひきこもりの人たちを元気づける人たち、無農薬の有機野菜づくりに励む農民、そば打ち名人、在日コリアンの人権活動家、中国の労働運動や環境運動に取り組む人たち等々が音楽を聴き、創作太極拳を披露し、講演に耳を傾けた。

 この日の主人公は、吉田勝次さん。台湾をはじめアジアの民主主義の研究者であり、実践活動家でもある硬骨の歴史学者、国際政治学者である。震災復興の市民運動の中で知り合って10年近くになるが、3年余り前に右腎臓を摘出するがん手術で一命を取りとめた後も前立腺がんと肺への転移もあって、自称「現役のバリバリのがん患者」として闘病生活を続けている。「3つもがんを抱えて、3年も生きているのは新記録」と大声で笑い飛ばす姿からは、とても生死の境をさまよった人とは思えない生命の“みなぎり”を感じる。

やれることは手当たり次第、貪欲に挑戦

 がんの告知を経て急性のショック状態から立ち直ったあと、先生から「笑いががんにはいいと聞いたので、ワハハの会に入会した」と電話をいただいた。用件は、私が難治性肝炎を克服したのにケール青汁療法などが効いたという話を聞きつけての情報収集だった。姫路からさっそく明石まで駆けつけた先生は、すぐさま生のケール葉の宅配を契約し、毎週9キロのケール葉をジュースにして毎日1リットルぐらいの青汁を飲み続けている。

 ケールだけではない。先生がこの3年間に試みたのは丸山ワクチン、朝夕3時間の散歩、気功・太極拳、漢方薬、玄米菜食、半身浴、北播磨の山岳から湧き出る清水、指絡療法、ホルモン療法、ビタミンCの大量摂取、俳句や短歌、油絵などの創作活動……と、友人知人に進められたことは貪欲に取り入れていった。

 「友人が勧めてくれたことを断る理由はない。なぜ効くのか、治るのかなど考えている暇はない。いいことは、副作用がない限りすべてやってみる。がんには特効薬はない」と断言する。

 そうした日々を送っていると、いつしか「ひょっとしたらいけるのではないかという気持ちが芽生え、肯定的な感情は確実に生理的現実を生んでいった」と振り返る。

 「人間には本来、偉大な生きる力が備わっている。人間には生きていこうという秘密のメカニズムが隠されているのを、普段は忘れている」と、生きる意欲が自然の治癒力を発揮させることを、闘病体験を人間の生き方の哲学に昇華させて説いた。医療技術に頼るのではなく、医療技術に一定の役割を認めながらも、人間の内部に秘めている生きる力と自然治癒力を大事にしようという実体験から得た提案は、理論的にも思想的にも納得できるものであった。

再出発への賛歌、大学に新しい「健康教室」設立

 退職記念講演会には、「さあ ともに出発だ」と大書した呼びかけのテーマが掲げられた。吉田さんの記念講演の一つは、以上のような絶望から希望を持つことによって再生しようとする人間の賛歌だった。もう一つの講演は「身近なデモクラシーの担い手」にかかわるテーマだったが、3人にひとりはがん患者になる現代社会にあって、生活習慣病も含めた現代社会の「病」の苦しみ、悩みから人々が希望を持って「生」へのたたかいを挑む元気の源を、シャワーのごとく浴びた一日だった。

 吉田さんは4月から、大学の同僚や市民の協力を得て同大学内で健康講座を開設する。呼吸法や太極拳、気功の練習と健康学習を通じて、病の予防や克服と癒しの場をめざす。何よりも、人々の出会いを大切にし、「病に悩む人の、病に悩む人による、病に悩む人のための教室運営」をおこなうという。
 ここにも「危機を人生の好機」と受け止める人々がいた。